島根大学附属図書館のブログ

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中村元記念館コレクション丸山勇写真展記念講演会「山陰が生んだ知識人たち―中村元と増田渉―」を開催

 6月22日(土)、中村元記念館コレクション丸山勇写真展「中村元ブッダのことば」の記念講演会として、「山陰が生んだ知識人たち―中村元と増田渉―」を行いました。

 

 講演は二本立てでした。

 前半は、島根県松江市八束町にある中村元記念館の笠原愛古氏にご登壇いただき、「中村元の生涯と思想」と題してお話しいただきました。

 中村元と言えば仏教学者というイメージがありますが、比較思想の分野においても大きな功績を残しています。当講演では、中村元の人生をたどりながら、彼の学究対象がどのように広がっていったかを知ることが出来ました。

 笠原氏の講演内容を中村の思想史という観点で個人的にまとめると次のようになります。両親の仕事の都合上、中村は二歳で松江を離れて東京に出ます。現在のお茶の水大学の国史(日本史)の教員であった叔母の影響を受け、中村は歴史と国語を良く学んだようです。その後、旧制中学校の入学直前に腎臓病で一年間休学したという体験や、中学教員の影響もあってか、哲学・思想方面に関心を覚えます。旧制高校時代(現在の大学の教養課程に相当)には、仏教学者のブルーノ・ペツォルドとの対話により仏教の理解を深め、歴史学者の亀井高孝に西洋史を学ぶことで東洋以外の歴史にも目を向けました。東京大学入学後は、インド哲学・仏教学者である宇井伯寿を指導教官としつつ、和辻哲郎の授業にも参加していました。この和辻からの言葉もあり、中村は東アジアの人々の考え方を比較した『東洋人の思惟方法』をものします。このように中村の研究は、複層的な知の流れを背景にしているようです。

 講演では、ここには書ききれなかった中村のエピソードや、東方学院設立の趣旨等についても語られました。詳しくは、中村元記念館にうかがって展示をご覧いただければと思います。

 

 後半は、本学法文学部の内藤忠和准教授が、魯迅研究の第一人者である増田渉(旧制松江高等学校及び島根大学の元教授であり、島根大学附属図書館初代館長)と魯迅の交流について講演されました。

  増田渉は現在の松江市鹿島町生まれで、後に中国文学者となった人物です。彼は高校時代から中国文学に傾倒していたようで、松江高等学校に通っていたころには、同校の『校友会誌』に明代の怪異小説を翻案した作品を寄稿しています。

 「日本文人の上海体験-増田渉と魯迅を中心に-」と題したこの講演では、まず、大正から昭和初期にかけて日本文人にとって、上海が非常に身近であったことが説明されました。そして、芥川龍之介谷崎潤一郎金子光晴がどのように上海について記述したのかをたどり、上海の租界の中に、次第に現地の文芸家グループが形成されていったことが示されました。

 佐藤春夫からの紹介状を手に増田渉が上海に渡ったのは昭和6(1931)年。政情が不安定な中、増田は、当時日本では学者としての一面だけが知られていた魯迅と交友を持ち、魯迅の記した『中国小説史略』の翻訳のため、約10ヶ月にわたり個人教授を受けます。増田の帰国後も書簡のやり取りが続きます。

 講義の結びとして、内藤准教授は、中国と日本が戦争を行っている中、二人の師弟関係は本当に稀有なものだったと指摘しました。当時、魯迅は、弟子が逮捕・殺害されたことに身の危険を感じ、外出がままならない状況だったようで、増田の訪問は魯迅にとって何らかの癒しになったのではと個人的に感じました。 

 

 当日は、地域住民の方を中心に45名の方にご参加いただきました。中村元や増田渉に所縁のある方々にもお越しいただいたようです。

 参加者の方からは「(内容が充実しており)できることであれば、2つの講演をそれぞれ別に聞いてみたかった」「増田渉の名前は初めて耳にしたが、非常に興味深い人物であることがわかった」というような声があがっていました。

 

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中村元記念館の笠原氏による講演の様子

 

概要
【記念講演】
日時: 2019(令和元)年6月22日(土)13:30~16:00
会場: 島根大学附属図書館3階多目的室
講師及び演題:
 笠原愛古氏(中村元記念館東洋思想文化研究所研究員) 「中村元博士の生涯と思想」
 内藤忠和氏(島根大学法文学部准教授) 「日本文人の上海体験―増田渉と魯迅を中心に」

 

【企画展示】
期間: 2019(令和元)年6月12日(水)~6月28日(金)
会場: 島根大学附属図書館3階多目的室
開室時間: 平日8:30~21:30、土日祝10:00~17:30
展示内容: 中村元の業績紹介パネル及び丸山勇氏撮影の写真パネル(中村元訳の『ブッダのことば』付き)

  島根大学中村元記念館は、2013(平成25)年に包括的連携に関する協定を締結しています。この協定に基づき、本学の山陰研究センターの協力も得て、中村元の業績と同記念館のコレクションを広く学内外に紹介することを目的として中村元記念館コレクション丸山勇写真展「中村元ブッダのことば」を開催しました。

 展示室では、中村元の業績をパネルで紹介するとともに、丸山勇氏撮影のインドの人々の写真に、中村元訳による『ブッダのことば』を添えました。また、中村元の生涯を紹介する動画を随時視聴できるようにしたほか、丸山勇と中村元の著作を閲覧するコーナーを設けました。

 

中村元記念館】

住所: 〒690-1404 島根県松江市八束町波入2060松江市八束支所2F

ホームページ: http://www.nakamura-hajime-memorialhall.or.jp/

 

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