島根大学附属図書館のブログ

島根大学図書館のサービスや催し、身近な出来事などについて、図書館スタッフが写真と共にご紹介します。 

文化遺産の記録をすべての人々へ~「遺跡資料リポジトリ」から「全国文化財総覧」までの道のり

 

shimadai-lib.hatenablog.jp

前回投稿では、Library of the Year 2025の優秀賞を受賞した「全国文化財総覧」について、その前身プロジェクトに島根大学附属図書館が関わっていたと紹介しました。

 

この記事では、今では知らない人も多くなったであろう、これまでのこのプロジェクトの経緯を簡単に(と言いつつ、とても長くなってしまいましたが・・・)ご紹介したいと思います。

 

(※プロジェクトの経緯は、こちらでも確認できます。)

 

はじまりは「遺跡資料リポジトリ

 

この取り組みは、2008年に島根大学図書館が中国地方の国立大学と連携して始めた「遺跡資料リポジトリからスタートしました。

 

自治体等が発行する埋蔵文化財の発掘調査報告書(以下「報告書」)は、研究者や学生にとって重要な学術資料でもありますが、入手や閲覧が難しいという課題がありました。これらの報告書を電子化・公開することで、誰もがアクセスしやすい環境を目指したのがこのプロジェクトです。

 

このプロジェクトでは、当時各大学で運用が始まっていた研究成果を発信する機関リポジトリに着想を得て、報告書が持つメタデータに特化したサブジェクトリポジトリシステムを構築しました。また膨大なテキスト量のある報告書を全文データ検索可能な形で公開したことも大きな特長でした。

この時には、5県の国立大学がそれぞれ県内発行の報告書を公開する「○○県遺跡資料リポジトリ」を立ち上げています。

 

島根県遺跡資料リポジトリのWebサイト(当時)

リポジトリ」という言葉は、一般的に「保存庫」のようなイメージを持たれがちです。しかし私たちの取り組みは、報告書を”図書”ではなく”データ”として扱い、より広く流通させることを強く意識したものでした。どこかの図書館の書庫に静かに並んでいる貴重な文化財の記録である報告書(図書)を、誰もがもっと利用しやすく・活用しやすくするために、可能な限り標準化したメタデータとともにインターネットで公開していくことが、これからの大学図書館として目指すべき一つの役割だと考えました。

 

「全国遺跡資料リポジトリ・プロジェクト」

 

その後、この取り組みは「全国遺跡資料リポジトリ・プロジェクト」として全国21の国立大学に広がり、自治体の文化財担当部署とも連携しながら展開しました。

 

国立情報学研究所(NII)の委託事業、そして科学研究費などの外部資金も活用し、報告書を各地域の大学が代行して電子化・公開をしながら、地域単位だったリポジトリを横断検索できる広域版リポジトリの構築、将来的な発行機関によるセルフアーカイブを可能にするための仕組み作り等に取り組みました。(NII委託事業報告書はこちら

 

2014年には、その成果が評価され国立大学図書館協会賞も受賞しましたが、大学主体のこの運用モデルは、参加地域の伸び悩みや運用コストといった面に課題も多くありました。この期間中、特にプロジェクトに参加する全国の大学図書館の皆様には多くのお手間とご心配をおかけしました。。

全国遺跡資料リポジトリ・プロジェクトのWebサイト(当時)

 

 「全国遺跡報告総覧」~「全国文化財総覧」

 

紆余曲折あり(本当に色々ありました…)、2015年、奈文研にシステムとデータが移管され、「全国遺跡報告総覧」として再スタートしたことで、このプロジェクトは大きく飛躍します。


公開冊数及び検索可能なテキストデータの累積的蓄積に加え、論文・動画を含む登録コンテンツの分野・種類、検索機能を大幅に拡充しならがら、都道府県ごとの報告書頻出キーワードの図化(報告書ワードマップ)や遺跡位置情報を活かした「WeGIS」も公開するなど、文化財情報の可視性と流通性を飛躍的に向上させました。

 

大学運営モデルの大きな課題の一つだった参加機関数も、文化庁などでの検討が進み、それまで曖昧だった発掘調査報告書の行政的な位置づけを整理する文書が公開されたことで(なぶんけんブログ)、一定の解決をみました。現在は、原則全てのデータを各発行機関が直接登録する仕組みとなっているため、文化財行政に関わる多くの機関が参加しています。

 

また、それまで情報が散在・重複しており必ずしも明らかでなかった国内の文化財情報・報告書書誌情報を一元化した全国文化財目録の公開や、都道府県別の発掘調査報告書総目録の公開なども、蓄積されたデータを活かした大きな成果として挙げられます。特に後者によって、史上初めて、日本における発掘調査報告書類の総数が判明しました。機械処理できない人力での名寄せ作業も多かったことが容易に想像でき、関係者のご努力に心よりご慰労申し上げたいです。

 

全国遺跡報告総覧Webサイト(Facebookでの1000いいね達成時)

 

2025年4月からは、名称も新たに「全国文化財総覧」となり、報告書以外の様々な文化財情報を統合的に検索・閲覧出来るプラットフォームになりつつあります。

 

遺跡資料リポジトリ時代、シンポジウム等のイベントで採用していたキャッチフレーズは文化遺産の記録をすべての人々へ」でした。

プロジェクトのビジョンとも言えるこの姿は、全国文化財総覧の今後の進展次第では、現実的に到達可能な目標になったと考えています。

 

 

Library of the Year 2025優秀賞!

 

2008年の中国地方5県での遺跡資料リポジトリ開始から17年経ちますが、今回のLoY優秀賞受賞は、近年、特に全国遺跡報告総覧〜全国文化財総覧における継続的・発展的な活動実績が評価されたものだと考えています。

 

非常に多くの課題を抱えていたこのプロジェクトを引き継いでくれただけでなく、ここまで発展させてくださった奈文研の関係者の皆様には感謝しかありません。

 

前回記事の繰り返しともなりますが、このプロジェクトに関わってくださったすべての方々に、改めて感謝申し上げます。

これからもこの取り組みが、文化財と人をつなぐ”知のインフラ”として、静かに、でも確かに広がっていくよう、皆さまもご支援いただけますと幸いです。

 

[yad]

 

 

 

【コラム風のおまけ】

 

2007年のキックオフシンポジウムから数えると、もう18年。

当時の中心メンバーだったKさん、Fさん、Sさん――。


それぞれが強烈な個性と情熱を持ち、プロジェクトを前に進めてくれた立役者です。現在は、皆さん島根大をご退職されています。

気がつけば、プロジェクトが始まって数年後から関わり始めた私だけが残り、今では“語り部”のような立場に…。

内輪ネタで恐縮ですが、せっかくなので愛情を込めて、ここで伝説の?島大のメンバーを紹介させてください。

 

※以下はMS365Copilotに手伝ってもらった、ほぼ事実かもしれないフィクションです。

 

🧑‍💼 伝説のメンバーたち

 

・Kさん:他の職員の心配(というか反対)をよそに、他の業務への影響を考え躊躇う他大学をも巻き込みながらズンズン話を進めていった“言い出しっぺ”。その強引ともいえる推進力は圧巻。その手腕は他の大学関係者からも一目置かれる存在(※嫌な予感がするので距離も置かれる)で、電子ジャーナル黎明期には出版社泣かせのネゴシエーターとしても名を馳せる。机は汚い。ファイル名の名付けもひどい。


・Fさん:Kさんを止めきれなかった責任を感じつつも、良くも悪くもちゃらんぽらんなシステム担当。よく分からないプロジェクトを立ち上げて外野から近づいてくる大学図書館員に不信感を抱く研究者や行政関係者とも、明瞭かつ不明な話術を駆使して、なぜか最後は笑顔で談笑している不思議なコミュニケーション力の持ち主(※解決はしていない)。机は汚い。本当にひどい。残された資料の山を整理するのに1ヶ月かかった。ほぼゴミだった。


・Sさん:もらい事故のようにこのプロジェクトを引き継ぎ、どう着地させるか文字通り東へ西へ奔走。最終的に奈文研への移管を実現し、そこで力尽きる(※尽きてない)。最後の方は打ち合わせでよく寝てた。やはり机は汚い。でも探している資料はすぐ見つけるのが不思議。

 

私はと言えば、下働きとその時々の隙間を埋めるような調整が主でしたが、地方の大きくはない国立大の図書館職員ではなかなか味わえない貴重な経験をさせてもらいました。

 

今改めて振り返ると苦労した記憶が圧倒的に多く、様々な事情で停滞を繰り返したプロジェクトの行く末を悲観したくなることも何度もありました。。。

そんな中でも前向きな気持ちを無くさずにいられたのは、プロジェクトの比較的早い時期から、目指すべきビジョンをメンバー間で自然と共有できていたことが大きな要因なのかな?と思っています。

(机はキレイな方が仕事は捗ると思いますが。)