島根大学附属図書館のブログ

島根大学図書館のサービスや催し、身近な出来事などについて、図書館スタッフが写真と共にご紹介します。 

QR蔵書点検の実験をしてみました

図書館では年に一回、数日間休館して蔵書点検という作業を実施しています。(たぶん全国のどんな図書館でも同様)

「蔵書点検」というのは、図書館で管理している本がちゃんとあるかどうかの確認作業で、「棚卸し」といった言葉遣いの方がピンと来る方が多いかもしれません。

当館ではバーコードラベルを本の表紙に貼っているので、これを1冊1冊バーコードリーダーで読み込む必要があります。そのため、書架(本棚)に並んでいる図書を、バーコードが見えるまで引っ張り出しては読み込み、引っ張り出しては読み込み…といった作業を1冊1冊ずっとやっていく必要があります。

バーコードラベルを貼ってある位置的に、右手にバーコードリーダーを装備して、左手で図書を引っ張り出す感じになるのですが、延々と繰り返される作業により左手が腱鞘炎のようになってしまうこともしばしば…。

そこで、島大図では過去に「AR和歌展」「VR図書館ツアー」とやってきたので、「次はQR蔵書点検や!(迷)」と、みなさんよくご存知のQRコードで蔵書点検が出来ないかを、2021年7月頃(※)に実験してみました。

※ 誤植ではなくて、記事にするのをずっと先延ばしにしていて、気づけばもう1年前です。(怖や怖や)

 

まずはQR蔵書点検の実験をするまでの手順をざっくりと解説すると、

1.任意の資料番号リストのQRコードをPDF作成できるプログラムをPythonでちゃちゃっと作ります(実際には印刷位置調整に難儀して全然ちゃちゃっとじゃなかったり…)

2.実験場所として選んだ本(今回は製本雑誌)の資料番号(バーコードラベル)を読み取ったデータをプログラムに読み込んで、市販の2×2cmのシールラベルに印刷します。できたものが以下の写真です。

QRコードと資料番号を印字したシールラベル

3.できたQRコードラベルを製本雑誌の背に貼ります。貼った状態のものが以下です。

(蔵書点検時には、点検した本がどの書架にあったのかも記録しているので、棚にもQRコードを貼ってます)

4.タブレット端末のカメラの範囲に入ったQRコードを一気に読み込んで記録できるプログラムをこれまたPythonでサクッと作ります。(Pythonって便利ですね♪)その時の様子が以下で、認識されたQRコードが緑色の線で囲われるのですが、場所がちょっと暗かったのもあって全体的にボケボケの画像に(笑)

タブレット端末でQRコードを読み取ったところ

5.他にもスマホのアプリで読み取ってみたり、QRコードに対応したPOT端末(QRコードリーダー)で読み取ってみたりして、バーコードリーダーを使った場合と比較してみました。(スマホアプリもPOT端末もQRコードを1個ずつ読み取っていくタイプのものです)

 

今回実験的にQRコードを貼ったのは92冊(6段分)で、結果は以下の表のようになります。

計測項目 計測時間 バーコードリーダーとの比較
QRコードラベルの貼り付け 12分20秒 -
バーコードリーダーによるスキャン 2分35秒 100%
タブレット端末でQRコード読み取り(現場) 2分10秒 85%
タブレット端末でQRコード読み取り(明るい場所) 1分43秒 68%
スマホアプリでQRコード読み取り(明るい場所) 2分0秒 79%
QRコード対応POT端末(現場) 1分24秒 55%

実験対象の製本雑誌がある場所(現場)が積層書庫で、暗くて光源が一定ではなかったため、特にタブレット端末やスマホアプリには不利な環境だったので、明るい場所に移して計測したものもあります。

タブレット端末でのQRコード読み取りは、棚の中心と左右端とでカメラまでの距離が違うためにピントが合わず、せいぜい5冊ずつぐらいしかまとめて読み取ることができませんでした。カメラ等の性能が良いタブレット端末を使うと事情が変わるのかもしれませんが、1段(あわよくば6段全て)を一回で読める爆速蔵書点検を期待していたので、残念な結果となりました。

スマホアプリはGoogle Playにある某無料アプリで、読み取ったQRコードのデータを溜めることができて、まとめてテキストファイルとしてエクスポートする機能があるものです。読み取りはサクサクなのですが、画面を見ながら棚上のQRコードをなぞっていくと、リアルと画面上の映像との遅延の影響で結構酔いました。

QRコード対応POT端末はさすがは専用機といった感じで、少しコツがいる感じではあるものの、比較的サクサクと読み込みができました。コツをつかんでいて明るい場所でなら1分程度でいけるかもしれません。

今回一番成績の良かったものとバーコードリーダーによるスキャンとの差が1分11秒なので、QRコードラベルを貼る作業(12分20秒)をペイするためには、10回以上かかる見込みになります。なので、既存の本全てにQRコードラベル貼るのは現実的ではないかなぁ…といった結果となりました。

ただ、左手へのダメージ軽減には抜群の効果があるかと思います(笑)

「(特に図書の)背にはすでに色々と貼られているので、これ以上背にシールを貼りたくない」といった意見もありますし、やるとしたら製本雑誌は背にシールを貼っていないので、製本雑誌だけ本運用するかどうかかな…といったところが今の考えです。

一応、当初の構想としては、コピーを取る際に必要な文献複写申込書をQRコードを読んで電子化・簡略化できるWebアプリや、書架をスマホのカメラでなぞって行くだけで、AR的にOPACで検索した図書までの道を案内できるWebアプリとか他にも色々と考えてたのですが、難しそうです(絶望)

 

以下、少しマニアックな話

QRコードには1から40までのバージョンがあり、バージョン番号が上がるにつれて搭載できる情報量が増えます。また、QRコードのいくつかのセルがかけた状態でも誤り訂正機能によって正常に読み込める仕組みがあるため、一部のセルが隠れてたりかすれてたりしても読み込むことができるのですが、誤り訂正レベルを上げると引き換えに搭載できる情報量が減ります。

今回はタブレット端末のアプリで一括読み取りを野望としてもっていたことと、資料番号(7桁の数字)だけ搭載できれば機能するので、一番少ないセル(21×21セル)のバージョン1で、誤り訂正レベルは最高のレベルH(約30%の誤りまで訂正できる)を採用しました。

QRコードPOT端末はBCR-BT2D2BKという製品型番のもので、これだと0.7×0.7cmで印刷したQRコードもサクサクと読み込めました。そのため、シールラベルの枠内にもQRコードと資料番号を一緒に印字することができますし、1cm程度の厚さの本であれば機能するかと思います。(microQRコードを使えば面積が1/4でも機能するようなので、0.5cm幅までいける…かも?)

また、最近はrMQRコードも開発されたそうで、これなら1.8mm幅でも印字できるようです。(ただし、rMQRコードを読み込める製品がまだない…)

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