島根大学附属図書館のブログ

島根大学図書館のサービスや催し、身近な出来事などについて、図書館スタッフが写真と共にご紹介します。 

花森安治と『校友会雑誌』編集

 前回、花森安治編集の『校友会雑誌』へのお問い合わせが増えています、と書きました。当館にとっても、あらためて花森安治について調べる機会になりました。そこで分かったことを、すこしまとめてみます。

・「花森君の図案になる装丁の斬新な意匠」
 これは、今回注目された『校友会雑誌』20号ではなく、19号・編集後記の一文です。花森の活 動は、『校友会雑誌』18号から21号にかけて確認されます(18号:小説の投稿、19号:詩の投稿、装丁、編集後記、21号:詩の投稿、装丁)。編集長 を務めた20号では、編集、装丁に加えて、小説と詩の投稿もおこなっています。こうした花森の仕事ぶりは、他の編集委員にも印象を残しているようです。各 号の編集後記には、花森についての記述があります。初めて装丁を手がけた19号では、上記のように「斬新な意匠」と評されています。21号では、田所太郎 が編集長を務めました。田所は「花森も印刷所から紙質見本を小山のやうに抱へこんできて」と述べています。

・「学校の勉強も結構でござゐますが、その合間には、ちとお遊びに。」
 花森は、『校友会雑誌』20号の編集後記でこのように述べ、投稿の少ない学年へ呼びかけています。花森に限らず、編集後記では毎号のように、学生への投稿 の呼びかけと原稿集めの苦労が語られています。この背景には、二つの理由がありそうです。  ひとつは、この雑誌が部誌ではなく学生全体(校友)の参加 を募るものであったことです。そのため、編集にあたる文藝部は、投稿者の学科や学年、ジャンル(小説、詩、エッセイ、論文など)に気を配ったのではと思わ れます。もうひとつは、「他の学校に寄贈していた」ことが影響していると考えられます。21号の編集後記には、田所が「全国数十の高校に寄贈するには…」 と述べている箇所があります。編集委員たちは、いわば学校を代表する雑誌として、他校で読まれることも意識していたのではないでしょうか。

  ちなみに「学校の勉強も結構でございますが」と書いた花森の学生生活は、文藝部の活動以外にも記録が残っています。『校友会雑誌』19号の編集後記には、「盟休(註:同盟休校の略か)の影響で編集が遅れた」という趣旨の記述がありますが、これに花森が参加し、街頭演説をおこなったとの記録があります(朝日新聞社松江支局編『旧制松高物語』)。後年のエネルギッシュな活動を彷彿とさせるものがありますね。

・「どちらをお出ししましょうか?」
 最後に当館の話しを。資料提供の舞台裏です。実は、当館が所蔵する『校友会雑誌』20号は、二冊あります。そのうち一冊は、当館の前身の一つでもある「松江高等学校図書印」が表紙に押してあります。それがこちらです。

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 取材対応にと、二冊を並べての会話は次の通りです。「どちらをお出ししましょうか。」「蔵書印ありのほうかな。当時から所蔵していたことが分かるから。こちらを出したいですよね。」 「でも、蔵書印が装丁を邪魔していますかね…。」「今回は、装丁を見たいということですから…うーん…。」
 結局、テレビや出版物へ提供させていただいたものは、蔵書印のない方でした。取材などで、『校友会雑誌』所蔵の経緯についてお訊ねを受けたのですが、その点では「蔵書印あり」を提供すれば一目瞭然だったのかもしれません。

島根大学ミュージアムの展示では、こちらを公開しています。ぜひ、「松江高等学校図書印」を確かめてみてください。

島根大学ミュージアムのブログ: 島根大学ミュージアム・附属図書館ミニ企画展「旧制松江高校出身の異才編集者 花森安治と田所太郎」

 サテライトミュージアムは、土日祝のみの開館です。平日に『校友会雑誌』の閲覧をご希望される場合は、事前に当館の方へお問い合わせをお願いします。

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